バンテアイ・スレイ~王道

アンドレ・マルローというそのフランス人青年が妻とともにカンボジアに渡ったのは1923年。
彼はジャングルの中たどりついたバンテアイ・スレイで東洋のモナリザと呼ばるデヴァター像に魅せられ、それをフランスに持ち帰ろうとしたところ、プノンペンで逮捕された。
その時の体験をもとに書かれたのが1930年に発表した『王道』という小説だった。

わたしは勝手にワクワク、ドキドキの冒険小説を期待していた。トゥームレイダーのイメージが頭にあったからかもしれないが。
ところが読み始めたとたんにその期待はまったくの的外れであることがわかった。
物語の全体のトーンは重く、暗い。
カンボジアで新たな遺跡を発掘し、それを高値で売りさばき一攫千金を狙う若者クロードは、命がけでジャングルの奥地へすすむ。
目的の彫刻は手にいれたものの、当時未開のジャングルに入るということは命の保証はまったくされないとうこと、常に死の恐怖と戦わなければならない。
正気と狂気の間をいきつ戻りつしながら、それでも手に入れた彫像から逃れられない・・・。
読みながらなぜかわたしの頭に浮かんだのはジョセフ・コンラッドの『闇の奥』という小説。(コッポラの映画『地獄の黙示録』の原作となった小説)
テーマもシチュエーションもまったく違うのだけれど、息がつまるような重苦しさをどちらも感じたのである。


一方、わたしが実際にみたバンテアイ・スレイはまったく違うものだった。
バンテアイ・スレイを訪れてから『王道』を読んだわたしは小説にとても違和感を感じた。
そこにあったのは繊細で美しい彫刻の瀟洒な寺院、死の恐怖も狂気もまったくなかった。
そこにはすでにうっそうと木々が繁るジャングルはなく、あるのはしっかりと保存され、きれいに整備された遺跡と、遺跡の前に延々と並ぶ土産物屋の建物だった。
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東洋のモナリザは1000年もの間、ここであらゆるものを見てきたのか。


王道 (講談社文芸文庫)

アンドレ・マルロ- / 講談社


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by giovanni12 | 2010-04-12 20:47 | Siem Reap | Comments(0)